治療
しこりの性質が、良性か悪性か判断ののち、それぞれ、対応・治療を考慮します。
良性腫瘍の治療
しこりが良性の腫瘍であれば、そのまま放置しても生活の支障となることはありません。ただし、しこりが大きかったり、目立って気になる場合には、TSH抑制療法、経皮的エタノール注入療法や手術、さらにがんの可能性を否定できない場合も手術を考慮することもあります。
- (1)経皮的エタノール注入療法(Percutaneous Ethanol Injection Therapy;PEIT)
- アルコールの一種であるエタノールを注入することによって腫瘍を縮小させる治療方法です。腫瘍に直接注入して壊死させる作用と、血管に注射して腫瘍に送られている栄養分を抑えるという、2つの作用があります。最近では、のう胞に対して行われることが多い治療法です。
- (2)手術
- 甲状腺腫瘍が大きくなり、気管の圧迫が強いような場合、鎖骨の内側(縦隔内)に進展し下垂するようなときには、手術で切除することが必要になります。
- (3)TSH抑制療法(内服治療)
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)には、良性・悪性にかかわらず腫瘍細胞の増殖を促進する働きがあります。最近は、第一選択になることが少なくなりましたが、甲状腺ホルモン薬を服用することで、甲状腺刺激ホルモンの分泌を抑えて腫瘍細胞の増殖を防ぎ、しこりの増大を抑えるための方法です。
悪性腫瘍の治療
甲状腺がんの場合は、手術が基本です。 甲状腺がんは進行が遅いため、たいていはリンパ節に転移したがんも含めてきれいにとることができます。
- (1)手術
- がんの進行の度合いに応じて、甲状腺の切除範囲やリンパ節を切除する範囲を定めます。
- (2)アイソトープ治療
- 肺や骨など遠くの臓器に転移している場合には、放射性ヨウ素(アイソトープ)治療を行います。放射性ヨウ素には甲状腺細胞に集まる性質があり、手術によって甲状腺を全摘してしまうと、肺や骨などへ転移した甲状腺がんに集まるようになります。そして、転移した甲状腺がんに取り込まれた放射性ヨウ素は、そこで放射線(β線)を出し、内部からがん細胞を破壊していくのです。放射性ヨウ素は、甲状腺の機能検査やバセドウ病の治療にも使われますが、がんの治療の場合はこれより多い量を使います。
- (3)放射線外照射治療(リニアック)
- 腫瘍を縮小または破壊するために、リニアック(直線加速器)を用いてエネルギーの高いX線を病巣部に照射する治療法です。
- (4)分子標的薬治療
- 甲状腺がんに対する治療の基本は外科手術です。その後に再発し、がんが切除不能な状態や、遠隔転移した場合に、放射性ヨウ素内用療法や甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制療法を行います。しかしながら、そのような治療が効かない場合もあり、現在、甲状腺がんの発生・進行の分子メカニズムを利用した、チロシンキナーゼ阻害剤(ソラフェニブ、レンバチニブ、バンデタニブ)が腫瘍増殖を抑え、より有効に病気を治療する目的で開発され承認されました。
- (5)TSH抑制療法
- 手術後に、甲状腺ホルモン薬を服用し再発を予防することがあります。甲状腺ホルモンの分泌は、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンによって促進され、逆に、甲状腺ホルモンが増えすぎると甲状腺刺激ホルモンの分泌が抑えられます。甲状腺刺激ホルモンには、良性・悪性にかかわらず腫瘍細胞の増殖を促進する働きがあります。このメカニズムを利用したのが、甲状腺ホルモン薬を服用する治療です。この治療では、少し多めの甲状腺ホルモン薬を服用することで、甲状腺刺激ホルモンの分泌を抑えて腫瘍細胞の増殖を防ぎ、再発する可能性を低くすることを目的としています。