バセドウ病は20~30歳代の女性に比較的多い病気です。妊娠・出産については計画する段階で、その都度主治医と相談することが大切です。
バセドウ病の方の妊娠において最も大事なのは、甲状腺ホルモンが正常にコントロールされていることです。甲状腺ホルモンが高いままで妊娠すると、流産・早産のリスクが高くなります。安全な妊娠・出産のためには、前もって甲状腺ホルモンの値を正常にしておくことが大切です。
バセドウ病の治療は、一般に抗甲状腺薬(メルカゾール、チウラジール/プロパジール)、無機ヨウ素の内服が中心です。妊娠初期の期間中のメルカゾール内服で胎児に影響する可能性がわずかにあるため、妊娠希望の際には妊娠初期にどの薬で治療するのかを考えて準備する必要があります。また、バセドウ病の病勢が強い場合には妊娠前の早めの段階で手術、あるいは1年以上妊娠が待てる場合にはアイソトープ治療へ変更することもあります。
妊娠後期でバセドウ病がおちついて薬もいらなくなり、甲状腺機能も正常である場合には、通常の出産と同じで病院の制限はありません。
バセドウ病特有の甲状腺を刺激する抗体(TRAb、TSAb)は、妊娠経過中に低くなってくることが多いのですが、妊娠後期になっても高値の場合には胎盤を通して胎児の甲状腺を刺激する可能性があります。この抗体は出生後1ヶ月程度で子供の体内からは消えていきますが、その期間は新生児科や小児科で治療が必要な場合があります。この場合、新生児科併設の病院が望ましいと考えます。
チウラジール/プロパジール内服では、原則授乳に制限はありません。メルカゾールは少量であれば問題ありませんが、内服量が多い場合には授乳間隔をあける必要があり、人工栄養との混合栄養とするほうが良い場合があります。無機ヨウ素は、乳汁中にヨウ素が濃縮するため、授乳中の無機ヨウ素内服は原則行いません。
産後はバセドウ病の病勢が強くなりやすいため、定期的に通院し適切な治療をすることが大切です。
妊娠初期の甲状腺機能亢進症には、バセドウ病由来ではないものがあります。これは胎盤で作られる性腺刺激ホルモン(絨毛性ゴナドトロピン:hCG)による亢進症です。このホルモンの濃度は妊娠中期になると低くなるため、それにつれて自然に良くなります。